こんにちは!ABEJAでエンジニアをしている宇留嶋です。今回は、SO‑101ロボットアームのグリッパー先端(エンドエフェクター)を柔軟性の高いTPUフィラメントで3Dプリントし、「卵をつかんでも殻が割れない」コンプライアントグリッパーを作成しました。柔らかい指先を与えることで高精度な制御がなくても扱えるようになり、その効果をPLA製グリッパーと比較した結果を紹介します。 SO‑101アームの組み立てや模倣学習については、以前公開した以下の記事もぜひご覧ください。
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tech-blog.abeja.asia TPUフィラメントは、熱で溶けて冷えると再び固まる熱可塑性ポリウレタンを細い糸状にした3Dプリンター用素材です。しなやかで曲げても割れにくいことが最大の特徴で、耐摩耗性や引張強度にも優れています。そのためホースやパッキン、スポーツシューズのソールなど柔らかさと丈夫さが同時に求められる製品に幅広く使われています。また、柔軟性が高いため衝撃や振動を吸収しやすく、壊れやすい対象物を扱うロボットハンドの素材としても最適です。 SO‑101 公式リポジトリには、コンプライアントグリッパーのSTLが公開されています。 この設計は「Fin Ray Effect」を着想源としています。魚のヒレのように内部にリブを持つ空洞構造をTPUでプリントすることで、対象物に追従してしなり、接触力を分散できます。PLA製グリッパーで生じやすい点接触を面接触へと変えられることで、壊れやすい対象物でも安全に掴むことが可能になります。 プリントの設定は以下で行いました。(秋葉原ロボスタディオン様にご協力頂きました。) STL ファイル: 印刷時はショア硬度95A〜98A程度のTPUフィラメントが推奨されています。
ネジ位置は完全互換なのでPLA製グリッパーと交換するだけで、追加作業は不要です。 印刷した完成品はこちらです。
TPUフィラメントの弾性は以下の動画でご覧ください。 TPU製グリッパーの効果を評価するため、卵の把持と搬送タスクを設定しました。 実験にはLerobotライブラリを用い、SO‑101アームをテレオペレーションしました。 実験結果は以下となりました。 失敗例(PLA製グリッパー)
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PLA製グリッパーでもトルクをギリギリまで調整すれば何度か卵を持ち上げることができました。
ただし、力を少しでもかけすぎるとすぐに殻が割れてしまいます。 成功例(TPU製グリッパー)
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接触面が広がりながら変形し、局所的な応力集中を防いだことで破損を回避できました。
搬送時はTPUの摩擦により、卵が滑り落ちにくい印象です。 TPU製グリッパーを用いた今回の検証では、ハードウェアを交換するだけで繊細な対象物を安全に搬送できることを示しました。指先がしなって面接触を形成するため、力覚センサがなくても余裕をもってトルクを設定でき、卵の破損を防げます。
もちろん、TPUには印刷時間の延長、造形難易度の高さといったトレードオフも存在します。しかし公式リポジトリのSTLをそのまま利用できるため導入コストは低く、壊れ物ハンドリングを手軽に試したい研究・教育の現場には好適だと感じました。
今後は別の素材の3Dプリントによる検証も進めていく予定です。材料選定ひとつでロボットハンドの性能が大きく変わる面白さを、引き続き探求していきます。 ABEJA では、AI とロボティクスを社会実装する仲間を募集しています。柔らかいロボットハンドにワクワクした方、ぜひ採用ページをのぞいてみてください!
はじめに
TPUフィラメントとは

TPU製コンプライアントグリッパーの設計


グリッパーのプリントと完成品


卵の把持・搬送を実験
タスク設計
実験結果
材質
実験結果
備考
PLA製グリッパー
卵を把持した瞬間に軽くひび割れ
以下動画参照
TPU製グリッパー
卵を割らずに把持・搬送成功
以下動画参照
考察とまとめ
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