はじめに
ABEJA大田黒です。前回は以下の記事を執筆しました。今回はロボットアームを作ったので、そのお話になります。
ロボットアームを自作しようと思ったきっかけについて触れます。
- 将来的に家事をすべてロボット化したい。その為に、比較的安価で関節トルクが強いロボットアームがほしい
- VLAの研究開発環境が自宅にほしい etc...
今回はこちらの3Dプリンター(Ender3 V3 Plus)とPLAフィラメントを使い、4基のロボットアームを製造しました。
設計まわり
構造・機械
よくある産業用ロボットアームを真似して、6DoF(自由度)にしてみました。Autodesk Fusion(旧名:Fusion360)を使って設計しています。第1関節〜第3関節(根本に近い部分)は強いトルクが掛かるため、Amazonで売っている強めのサーボモーターを使っています。今回はDS51150(強めのサーボモーター)とDS3218の二種類のサーボモーターを使っています。
Fig: サーボモーター(DS51150)の外観
※強トルクサーボは非常に危険です。使用時には電源をOFFにしてから手を触れるよう徹底してください。
Fig: サーボモーター(DS3218)の外観
安定したアームの回転を実現するために、ボールベアリング(MR608ZZ)を使っています。最初はベアリングを使っていなかったのですが、どうしても「ガタつき感」を改善する事ができず、ベアリングを使うことにしました。ベアリングは3Dプリント部品に万力で慎重に圧入しました。(圧入時は破損の可能性があるため注意が必要)
Fig: ボールベアリング(MR608ZZ)の外観
電源回路
Fig: ロボットアーム用電源回路
今回使っているサーボモーターは2種類あり、それぞれが12Vと5Vで動きます。今回はLED照明用の電源装置と昇降圧モジュールを2つ組み合わせて、電源回路を自作しました。 ※後述しますが、ローサイド(GND側)での電流センスとなっており、GND側の分流の影響を受け、正しい電流値の取得ができませんでした。
サーボモーター周りの配線が多かったので、カシメた。
制御回路
外部からロボットアームの制御信号(関節角度の制御信号)を受取り、サーボモーターへ信号を伝達するためにESP32-WROOM-32Eを利用しています。開発環境はPlatformIOを使っています。 ※技適を取得済みの製品を使っています。 ※回路基板は別件で作っているもので、そちらを転用しました。今回Amazonで売っていないモノになります。
ロボットアーム1本あたり、6DoF+エンドエフェクターになるため、サーボモーターを7個つかっています。ESP32から7つのサーボモーターに信号を送るために、PCA9685というモジュールを使っています。電源回路写真の右上に位置する長方形の基板です。このモジュールはI2C(IIC)接続可能で、I2C経由で16チャンネルのPWM信号の周波数・デューティ比を決めることができます。 PWM信号で制御可能なサーボモーターを最大16台まで接続することができます。
制御処理
こちらがESP32上で動かしているコードです。(2025年6月10日現在) github.com
ESP32がWi-Fiに直接接続し、シリアル通信・HTTP(TCP)・UDPで制御リクエストを受信できるようにしています。
制御用SDK周り
こちらが実際のSDKコードです。(2025年6月10日現在) github.com
SDKはClaudeで生成しました。myCobotの制御に似たような感じのコードが出力されています。
- 現在角度・目的角度を計算しながら、適宜Waitを挟みながら関節を動かす系
- 例: set_joint_angle
- 独自に軌道制御をする為にサーボモーターに直接的に関節に指示を出す系
- 例: set_joint_angle_unsafe
アーム作成の様子
今回はCreality Printと呼ばれるスライサーソフトを用いて3Dプリント用データの準備を行いました。スライサーソフトでは、Autodesk Fusion等の3D CADでモデリングしたデータ (STL形式)を読み込む事ができて、部品の配置や個数、サポート材の有無、インフィル率、その他細かいパラメータを決める事ができます。
合計15時間程度でアーム1本分の部材を印刷する事ができました。 ※動画再生時は音量に注意してください
印刷風景 pic.twitter.com/QUudvMjpQy
— taguromaru / JK1RZI (@xecus) June 3, 2025
今回の学び
技術面
3D CADやAmazon購入画面に向き合っている時は、想像していなかった様々な事が発生しました。今回も楽しい学びをたくさん得ることができました。製品として確立されているロボットアームの完成度を改めて認識する学びが多かったです。所感をいくつか列挙します。
曲げモーメントが強い場所において、3Dプリンターで印刷した部材が一部変形
- PLAの縦弾性係数、部材の断面二次モーメントが個人的な感覚よりも小さかった
- 厚さを変更したり、インフィル率を変えて試行錯誤。初期フェーズよりマシになったが剛性問題はまだ残っている。
- 特にモーメントが掛かる部材は、金属加工で作ってもいいかもしれない。(meviyの出番?)
- あと、金属粉末配合のPLAフィラメントにチャレンジしてみたい
サーボモーターのバックラッシュ(歯車の隙間)によるガタガタ感が気になった
- 第一関節のバックラッシュによる遊びが、アーム全体を揺らしていた
- 次回以降のサーボモーター選定や減速機設計に活かしたい
組み立てることを考えて3Dモデリングする必要性がある(当たり前)
- ドライバーと他の部材が干渉してネジが入らない、無理な力を入れて部材が割れる事が何度も発生
- 「小さく設計して印刷して試す」という繰り返しをやればよかった
高速な改善活動を回すなら家庭用3Dプリンター。ちゃんと作るなら、3Dプリンティングサービス
- 最初は自宅の3Dプリンターではなく、DMM make様のようなサービスを利用していた
- 非常に品質が高い反面、費用や時間面で高速な改善サイクルを回すのが難しいと感じた。1試行錯誤で数千円〜は必要。
ネジ穴を3Dモデル化し忘れた
- ネジ穴のタップを切るのがすごく大変だった。切削とタップ切りを同時にやっている感覚。
M2.5のタップを切る連続作業が大変で腱鞘炎になりそうだった
- サーボホーンと3Dプリンターで印刷した部材との接続部分
- サーボホーンの穴の数x関節数×製造ロボットアームの本数だけタップを切った
- 電動ドリルで回せるタップはM3までしか売っていないので、すべて手作業
サーボモーターの配線(電源・信号線)を通しやすい構造を考えておけばよかった
- 結果的にスパイラルチューブと養生テープで固定する形となった
- 見た目が悪いので、もっとアーム内部に通していきたい
昇降圧コンバータの電流値が正しく表示されていなかった
- 購入した昇降圧コンバータはローサイド(GND)側での電流センスになっていた
- 12V生成用、5V生成用モジュールのGNDを共用しており、それぞれのGND配線で分流が発生
- 回路全体の消費電流を約1/2した値がそれぞれのモジュールに表示されるようになった
ソフトウェアシミュレーション上の仮想角度と現実の角度は必ずしも一致しない
- 組立時の誤差、サーボモーターとサーボホーンの噛み合わせにより、多少ずれる
- 制御前にズレを補正しないと、順運動学の計算と実際のアームの位置ズレが大きくなる
サーボモーターの急な角度指示は危険
- アームを勢いよく動かすと、怪我や部材破損リスクがある
- エンコーダーを入れた角度検出を行い、角速度のリミット制御を今後は検討したい
個別のサーボモーターの電流値モニタリングと電源ON/OFFをやれるようにしたい
- ストール(動かない状態で電流を流し続ける)状態で放置すると、サーボモーターが過熱する
- サーボモーターが想定していないPWM信号を送ったらハングアップする事があった。電源抜き差しでしか解決できなかった
もっと曲線デザインを取り込んでいけばよかった
- SO-ARMかっこいい。デザイン性を意識するきっかけとなった
その他:ロボット作りはお金がかかる
1本あたり数万円ほど製造原価がかかりました。特にサーボモーターや電源関連の部品が高いですね。塵積ですが、ネジ代も積み重なると意外にコストがかさみました。(ネジをたくさん使うような設計にしてしまい反省)
3Dモデル・ソースコードについて
まだデータは整理中ですが、取り急ぎ下記にてまとめています。3Dモデルや関連ソフトウェア(ESP32用C++コード、ロボットアーム制御用PythonSDKなど)はアップロードしてします。ご興味がございましたら、覗いてみてください。リポジトリの内容物は随時更新予定です。
本データや記事を利用される場合は、すべて自己責任にてお願いいたします。製作物や作業中の事故・損害について、当方では一切の責任を負いかねます。
- 電源装置は大電流を流すことができるため、短絡すると非常に危険
- 回路を触るときは必ず電源OFFにしましょう
- サーボモーターのトルクが非常に強いため、指挟み事故等には注意
- モーターやアームに触れるときは電源OFFになっている事を確実に確認しましょう
- 3Dプリンターの可動部・高温部に気をつける
- FDMの場合、ノズル温度は約200~230度になります (PLAの場合)
- 工具を利用する場合は、怪我に注意
- はんだごて、ニッパー、カッターによる受傷に注意
追記:開発合宿で利用しました
今回作成したロボットアームですが、ABEJAの5月の開発合宿で利用する運びとなりました。開発合宿の様子は下記記事で執筆しています。
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